COLUMN

足の健康コラム

足裏脂肪移植の科学的根拠|2年間のランダム化比較試験でわかっていること

自由診療の治療を検討するとき、「本当に効果があるのか」を確かめる手がかりが少ないことに、もどかしさを感じる方は多いと思います。

足裏への脂肪移植については、2年間にわたる前向きランダム化クロスオーバー試験が報告されています(Minteer, Gusenoff ら/Plast Reconstr Surg, 2018)。ここでは、その内容をご紹介します。

そもそも、どのくらいの人に起きているのか

この研究の背景として、60歳までにアメリカ人の約30%が足の脂肪パッドの萎縮を経験すると報告されています。同論文では、60歳以上の成人の約3分の1、70歳以上の約半数に足底脂肪パッドの萎縮がみられるとも記載されています。

前足部の脂肪パッドの萎縮を引き起こす要因としては、次のようなものが挙げられています。

  • 長期にわたる激しい活動
  • 遺伝的に決まる足の形
  • 前足部への複数回のステロイド注射
  • 手術
  • 足の外傷

「使いすぎ」だけでなく、もともとの足の形や、過去に受けた治療も要因になりうるという点は、押さえておく価値があります。

研究の方法

2つのグループに分けて比較しています。

グループ1 グループ2
人数 18名(女性14名・男性4名) 13名(女性9名・男性4名)
介入 登録時に脂肪移植 1年間の保存的治療のあと脂肪移植
追跡期間 2年 移植後1年

グループ2が「保存的治療を1年続けたあとに移植を受ける」という設計になっているため、同じ人の中で、保存的治療の期間と移植後の期間を比べられる構造になっています。

評価したのは、痛み、日常生活の障害の程度、脂肪パッドの厚み、そして立位と歩行時にかかる力と圧力です。

報告されている結果

痛み

両グループとも、脂肪移植の直後から痛みが改善し、その改善が追跡期間を通じて続いたと報告されています(p<0.05)。

グループ1は登録時点で最も痛みが強く、グループ2は保存的治療を受けていた6ヶ月・12ヶ月の時点で最も痛みが強かったとされています。保存的治療を続けている間は改善しなかった痛みが、移植後に変化したという流れです。

機能

グループ1では、術後12ヶ月・18ヶ月・24ヶ月の時点で機能の改善が認められたと報告されています(p<0.05)。グループ2では術後12ヶ月時点で最も高い機能を示したとされています。

脂肪パッドの厚み

ここが重要な所見です。脂肪パッドの厚みは術後に増加したものの、グループ1では術後2ヶ月、グループ2では術後6ヶ月の時点で、移植前の厚みに戻ったと報告されています(p<0.01)。

「厚みが戻る=効果がなくなる」ではない

この結果は、一見すると矛盾して見えるかもしれません。厚みが元に戻っているのに、痛みの改善は続いている——。

この疑問に対しては、同じ研究グループがその後2つの検証を行っています。

検証① MRIで立体的に見ると、体積は増えている

脂肪移植の前後でMRIを撮影し、足の脂肪を3次元の体積として評価した研究です(Ruane ら/Plast Reconstr Surg, 2019)。

17名(男性6名・女性11名)に、片足あたり平均5.8ccを注入しています。その結果、術後6ヶ月の時点で組織の厚み(p=0.008)と体積(p=0.04)がいずれも増加していたと報告されています。

先のランダム化比較試験で「戻った」とされたのは、中足骨頭の真下という一点で測った厚みです。同じ足を立体で捉え直すと、脂肪は残っていた——というのがこの研究の示唆です。測り方によって見える像が変わる、ということでもあります。

検証② 皮膚(真皮)そのものが厚くなっている

もう一つが、皮膚の変化に着目した研究です(Farber ら/Aesthet Surg J, 2019)。

ランダム化クロスオーバー試験として、超音波で脂肪パッドと真皮の厚みを測定し、写真で皮膚の質も評価しています。平均年齢63±6歳、平均BMI 26.0±4.6の23名(男性3名・女性20名)が対象で、グループ1で26足、グループ2で17足に注入が行われました。

その結果、術後6ヶ月の時点で真皮の厚みが増加していたと報告されています。著者らは、脂肪移植が皮膚の質を改善しており、それが「移植した脂肪が失われた後も症状の改善が続く」ことの説明になりうるという仮説を立てています。

つまり

この治療は「クッションを足す」だけの治療ではない可能性が示されています。移植された脂肪が周囲の組織に働きかけ、皮膚を含めた足裏の組織そのものを変えている——という理解です。ただし、その詳しい仕組みはまだ確立されていません。

画像上の一点の厚みという指標だけでは、この治療で起きている変化を捉えきれていない、ということでもあります。

当院が「厚みを増やす治療」ではなく「組織そのものの質に働きかける治療」としてご説明しているのは、こうした背景によります。効果の持続についても、この観点から整理しています。

この研究から言えること・言えないこと

内容
言えること 足底の脂肪パッド萎縮に対する脂肪移植について、2年という比較的長い追跡期間と、ランダム化・クロスオーバーという設計のもとで、痛みと機能の改善が報告されている
言えないこと 単一施設・少人数(31名)の研究であり、すべての方に同じ結果が生じることを意味しない。効果には個人差がある

研究の限界も、あわせてご理解いただきたい点です。参加者は31名にとどまり、実施したのは米国の1施設です。日本人を対象とした同規模の試験は、現時点では報告されていません。

当院では、こうした報告を踏まえたうえで、個々の患者様の状態をエコーで確認し、適応を判断しています。論文の結果をそのまま「あなたにも起こること」としてお伝えすることはいたしません。

論文と、目の前の足は別のものです

エビデンスは、治療を選ぶための材料のひとつであって、結論ではありません。

報告されているのは「この条件の患者群で、平均するとこうだった」という事実です。ご自身に当てはまるかどうかは、ご自身の足を診てからでなければわかりません。

当院では、エコーで足裏の脂肪の厚みや腱・筋膜の状態を確認し、画像をご覧いただきながらご説明します。

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当院について

リスク・副作用について

足裏脂肪移植は自由診療(保険適用外)です。費用は両側880,000円・片側660,000円(いずれも税込、術後用オーダーインソール作成費用を含む)で、このほかに初診料5,500円・カウンセリング料13,200円・術前検査13,200円・術後用物品セット15,000円・術後消毒セット1,500円・抜糸処置5,500円・術後診察の再診料2,200円×4回がかかります。脂肪を採取する部位には内出血・筋肉痛のような痛み・腫れ・皮膚の凹凸・色素沈着が、移植する部位(足裏)には生着不全・石灰化・感染・血腫・左右差・シスト(しこり)の形成・術後の一時的な腫れ・痛み・内出血が生じる可能性があります。少なくとも術後1週間は足底の痛みが続き、術後4週間の免荷期間が必要です。本治療は患者様ご自身の脂肪組織を用いるもので、医薬品・医療機器を留置するものではありません。

参考文献

Minteer DM, Gusenoff BR, Gusenoff JA. Fat Grafting for Pedal Fat Pad Atrophy in a 2-Year, Prospective, Randomized, Crossover, Single-Center Clinical Trial. Plast Reconstr Surg. 2018;142(6):862e-871e.

Ruane EJ, Minteer DM, Wyse AJ, Gusenoff BR, Gusenoff JA. Volumetric Analysis in Autologous Fat Grafting to the Foot. Plast Reconstr Surg. 2019;144(3):463e-470e.

Farber SE, Minteer D, Gusenoff BR, Gusenoff JA. The Influence of Fat Grafting on Skin Quality in Cosmetic Foot Grafting: A Randomized, Cross-Over Clinical Trial. Aesthet Surg J. 2019;39(4):405-412.

監修:菊池 守(リカルナクリニック)