COLUMN

足の健康コラム

糖尿病の足潰瘍を「再発させない」ために|圧力を下げるという考え方

糖尿病の足潰瘍は、治ったあとが本当の勝負だといわれます。

一度治癒しても、再発を繰り返すケースが少なくありません。そして再発のたびに、皮膚だけでなく足そのものの機能が失われていきます。

この記事では、「治す」ではなく「再発させない」という視点から、何が問題になっているのかを整理します。

なぜ同じ場所に繰り返しできるのか

潰瘍ができる場所には、理由があります。

足の変形や歩き方の異常があると、足の一部分に局所的に高い圧力がかかります。そこに、糖尿病による神経障害(痛みを感じにくい)、脂肪パッドの萎縮(クッションがない)、過去の潰瘍の既往といった条件が重なると、同じ場所に繰り返し潰瘍が生じることになります。

痛みを感じにくいために、圧力がかかり続けていることに気づけない。これが糖尿病の足の難しさです。

つまり、潰瘍そのものを治しても、「高い圧力がかかる状態」が変わらなければ、また同じことが起こります。

圧力を下げるという発想

そこで重要になるのが、足底にかかるピーク圧を下げるという考え方です。

アプローチ 具体的な方法
圧を分散する インソール・装具・靴の調整
圧のかかり方を変える 歩行指導・腱のバランス調整
荷重そのものを減らす 体重管理・活動の調整
クッションを補う 脂肪移植などの軟部組織増大

一般的には、上の3つが行われます。当院でも、オーダーメイドインソールや歩行診断・歩行指導を行っています。

これに加えて、失われたクッション(脂肪パッド)そのものを補うというアプローチについての報告があります。

脂肪移植による除圧についての報告

足底への脂肪移植(Pedal Fat Grafting)については、足底のピーク圧を低下させ、創傷治癒を促進することが示されているとされています。これを前提に、潰瘍の治療および予防への有用性を調べたケースシリーズが報告されています(Kress ら/Plast Reconstr Surg Glob Open, 2023)。

項目 内容
対象 15名の患者、17足
年齢 63±12歳
BMI 30.9±3.1
平均注入量 10.7mL
平均手技時間 84.6分
平均追跡期間 6.9ヶ月(1〜36ヶ月)
結果 追跡期間中、合併症および潰瘍の再発は認められなかった

著者らは、さまざまな病態を持つ患者において、足底のピーク圧を下げ、潰瘍の再発を予防する治療選択肢として有望であると結論づけています。

「脂肪を補う」だけでなく「力のかかり方を変える」

もう一つ、考え方として重要な報告があります。脂肪移植と腱のバランス調整を組み合わせた症例報告です(Luu ら/Plast Reconstr Surg Glob Open, 2016)。

報告されている経過

2型糖尿病の37歳男性で、湿性壊疽のため右第5中足骨の部分切除を受けた後、その部位に慢性の創傷が残っていました。総接触ギプス(TCC)と繰り返しの外科的デブリードマンを行っても治癒しなかったケースです。

この方は前脛骨筋腱移行術を受け、その後1ヶ月のギプス(Total Contact Cast)治療によって、足底の創傷は治癒しました。

一箇所を治すと、別の場所に圧が移る

しかし問題はそこで終わりませんでした。

治癒した部位には脂肪パッドの萎縮が残り(MRIで確認)、潰瘍化の前段階である角質の肥厚と、実際の潰瘍が生じていました。さらに、体重のかかり方が変わったことで、今度は第1中足趾節関節の部分に角質の肥厚が生じたとされています。

そこで、第5中足骨基部と第1中足骨頭の下に、自家脂肪移植が行われました。腹部前面から25mLの脂肪を採取し、軟部組織のボリュームが失われた足底前部と足底外側中足部に複数の小切開から注入。術後は後方シーネで固定し、免荷を指示されています。

この報告が示していること

注目すべきは、「創傷を治す」→「腱のバランスを調整する」→「失われたクッションを補う」という段階を踏んでいる点です。

そして、一箇所の圧力を下げると、別の場所に圧力が移るという現象が実際に起きています。糖尿病の足を診るうえで、局所だけを見ていては足りないことを示す経過です。

なお、これは1例の症例報告であり、有効性を一般化できるものではありません。

この報告の限界も、あわせてご理解ください

先に挙げたKressらの報告はケースシリーズ(症例集積研究)であり、比較対照を置いた試験ではありません。人数も15名と限られています。平均追跡期間も6.9ヶ月と、長期の結果を示すには十分ではありません。

著者ら自身が、長期追跡についてはさらなる研究が必要であると述べています。

したがって、「脂肪移植をすれば潰瘍が再発しない」と申し上げることはできません。あくまで、そうした報告があるという段階です。

糖尿病の足について、当院の考え方

糖尿病で足にリスクを抱えている方の診療は、皮膚の状態だけを見ていては成り立ちません。

  • 足の変形はあるか
  • どこに圧力が集中しているか
  • 脂肪パッドはどの程度残っているか
  • 歩き方に問題はないか

これらを一体として評価する必要があります。当院では、超音波(エコー)による脂肪の評価、歩行診断、オーダーメイドインソールの作製などを行っています。

主治医の先生との連携が前提です

潰瘍の治療そのものや、感染を伴う状態については、適切な医療機関との連携が必要になる場合があります。現在通院されている医療機関がある場合は、そちらでの治療を優先していただくことも含めてご相談ください。

脂肪移植を検討する場合、当院では術前に足の血流検査と血液検査を行い、そのうえで適応を判断します。とくに、次のような場合は当院での自由診療の適応とならないことがあります。

  • 活動性の潰瘍や感染がある
  • 血糖のコントロールが安定していない
  • 末梢の血流障害があり、血行再建の評価が必要である

すべての方に適応となる治療ではありません。また、足裏脂肪移植を受けられる場合は術後4週間の免荷期間が必要になるため、その期間を確保できるかどうかも判断材料になります。

「治ったあと」を診てもらえていますか

潰瘍が治った時点で診療が終わってしまうと、圧力の問題は残ったままです。

再発予防は、治癒したあとに何を評価するかで決まります。足の形、圧の集中する場所、残っている脂肪の量——これらは測ることができます。

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当院について

リスク・副作用について

足裏脂肪移植は自由診療(保険適用外)です。費用は両側880,000円・片側660,000円(いずれも税込、術後用オーダーインソール作成費用を含む)で、このほかに初診料5,500円・カウンセリング料13,200円・術前検査13,200円・術後用物品セット15,000円・術後消毒セット1,500円・抜糸処置5,500円・術後診察の再診料2,200円×4回がかかります。脂肪を採取する部位には内出血・筋肉痛のような痛み・腫れ・皮膚の凹凸・色素沈着が、移植する部位(足裏)には生着不全・石灰化・感染・血腫・左右差・シスト(しこり)の形成・術後の一時的な腫れ・痛み・内出血が生じる可能性があります。少なくとも術後1週間は足底の痛みが続き、術後4週間の免荷期間が必要です。本治療は患者様ご自身の脂肪組織を用いるもので、医薬品・医療機器を留置するものではありません。糖尿病がある場合、創傷治癒や感染に関するリスクの評価がとくに重要になります。適応の判断は、血糖のコントロール状況や血流の状態を含めて慎重に行います。

参考文献

Kress GT, Swerdlow M, Mohan N, Patel K, Shin L. Remission Strategies with Fat Grafting to Prevent Recurrence of Pedal Ulcerations and Pain: A Case Series. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2023;11:e5232.

Luu CA, Larson E, Rankin TM, Pappalardo JL, Slepian MJ, Armstrong DG. Plantar Fat Grafting and Tendon Balancing for the Diabetic Foot Ulcer in Remission. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2016;4:e810.

監修:菊池 守(リカルナクリニック)