その踵の痛み、本当に足底腱膜炎ですか|見落とされやすい踵部脂肪褥症候群
踵が痛い。整形外科を受診する。レントゲンを撮る。「足底腱膜炎ですね」と言われる。
このやりとりは非常に多く行われています。そして実際、足底腱膜炎は踵の痛みの最も多い原因です。ただし、それだけではありません。
2番目に多い原因
踵部脂肪褥症候群(Heel Fat Pad Syndrome, HFPS)は、足底踵部痛の原因として足底腱膜炎に次いで2番目に多い可能性が、2つの研究にもとづいて指摘されています(Chang ら/J Foot Ankle Res, 2022)。
同レビューが引用する調査では、足底踵部痛を訴える集団のうち53%が足底腱膜症、15%がHFPSであったと報告されています。また、米国の地域在住高齢者を対象とした調査では、HFPSの有病率は4.2%(足底腱膜症は6.9%)とされています。
踵のクッションである脂肪パッドが萎縮し、衝撃を吸収できなくなることで痛みが生じる状態です。
なぜ見落とされるのか
診断基準が確立されていない
踵部脂肪褥症候群については、明確な診断基準が確立されていないという指摘があります(Chang らによるスコーピングレビュー/J Foot Ankle Res, 2022)。この総説は、有病率・原因・診断基準・保存的治療について、どこまでわかっているのかを整理することを目的としています。
日本でも同様の指摘があります。「足底踵部痛の2番目に多い原因である可能性が報告されているものの、診断基準が明確に確立されていないのが現状」と述べられています(前道ら/臨床整形外科, 2024)。
診断基準がはっきりしない状態は、そのまま「見落とされやすさ」につながります。
レントゲンには写らない
もう一つの理由は、画像の問題です。レントゲンでわかるのは骨の状態です。脂肪パッドは写りません。踵部脂肪褥症候群では、レントゲンで足底踵骨棘が認められないこともあります。
「レントゲンで異常なし」は「骨に異常がない」という意味であって、「足に異常がない」という意味ではありません。
症状が似ている
どちらも踵の痛みであり、荷重で悪化します。問診だけで区別するのは容易ではありません。
見分ける手がかり
完全な鑑別は診察と画像によりますが、次のような特徴が指摘されています。
| 足底腱膜炎 | 踵部脂肪褥症候群 | |
|---|---|---|
| 痛む場所 | 踵骨の内側前方(腱膜の付着部) | 踵骨の後方、体重がかかる部分の下 |
| 悪化する状況 | 朝の一歩目、休憩後の歩き始め | 硬い路面での歩行、長時間の立位 |
| 靴の影響 | インソールで軽減しやすい | 靴を履けば楽だが裸足では痛い |
| 確認すべき既往 | 使いすぎ、急な運動量の増加 | 加齢、肥満、リウマチ性疾患、糖尿病、ステロイド注射 |
この表は目安であり、両者が併存していることもあります。
とくに、足底腱膜炎の治療としてステロイド注射を繰り返してきた方は注意が必要です。注射によって局所の脂肪が萎縮し、結果として踵部脂肪褥症候群を併発している可能性があります。
超音波(エコー)で確認できます
超音波検査では、踵の脂肪組織の厚みの減少を確認できます。
ただし、厚みの数値だけで診断が決まるわけではありません。健常成人でも12〜29mmという広い幅があり、9mm以下がHFPSを示唆しうるとする報告がある一方、健常者と差がなかったとする報告もあります(Chang ら, 2022)。
そのため、荷重時と非荷重時の厚みの比(圧縮率)をあわせて見る必要があります。前道らも、静的な評価だけでなく荷重をかけた状態での動的な評価が重要であると述べています。
また、足底腱膜の状態(厚くなっていないか、損傷がないか)も同時に評価できます。両方を一度に確認できることが、エコー検査の利点です。詳しい構造と評価の考え方は「かかとの脂肪はなぜ減るのか」で解説しています。
エコーは針を使わないため痛みがなく、放射線被ばくもありません。画像を見ながらのご説明が可能です。
診断が変われば、治療も変わります
これが最も重要な点です。
足底腱膜炎に対する治療は、腱膜へのアプローチが中心になります。ストレッチ、インソール、装具、消炎鎮痛薬、PRP療法などです。
一方、痛みの原因が脂肪パッドの萎縮にあるのであれば、腱膜への治療をいくら続けても、減ってしまった脂肪は戻りません。
踵部脂肪褥症候群に対しては、まず適切な靴、インソールまたはヒールカップ、テーピング、安静と冷却、消炎鎮痛薬といった保存的治療が行われます。それでも改善しない場合に、失われた脂肪そのものを補う選択肢(足裏脂肪移植、足裏クッション注射、足底ヒアルロン酸注射)を検討する流れになります。
治療しても改善しない場合、治療法を変える前に、診断を見直す価値があります。
慢性化した足底腱膜炎そのものへの新しいアプローチ
なお、診断が足底腱膜炎で正しかった場合でも、慢性化したケースには課題が残ります。
足底腱膜炎は米国で年間200万人が罹患するとされています。そのうち約10%が慢性化し、足底腱膜が厚くなった状態になると報告されています(Gusenoff ら/Plast Reconstr Surg, 2022)。この段階の治療は、回復に時間がかかったり、足の不安定性や瘢痕を残したりすることがあります。
こうした慢性例を対象とした研究があります。対象は、足底腱膜の厚みが4mmを超え、標準治療で改善しなかった方です。腱膜へ脂肪を注入する方法(perforating fat injection)を検討したランダム化クロスオーバー試験が報告されています(同)。腱膜の厚みを減らし、痛みを軽減し、生活の質を改善するという仮説にもとづく、パイロット研究として実施されました。
当院では、保存療法で改善しない足底腱膜炎に対しても、脂肪を用いた治療を選択肢のひとつとして検討します。ただし、上記の研究で用いられた腱膜そのものへ穿通させる術式とは異なります。適応と術式は、エコーで腱膜と脂肪パッドの状態を確認したうえで判断します。
ステロイド注射とPRP注射の比較
慢性の足底腱膜炎に対するPRP注射とステロイド注射を比較したランダム化比較試験があります(Sawan ら/Egypt J Anaesth, 2023)。両群とも痛み(VAS)・機能(AOFAS)・超音波所見(腱膜の厚み、エコー輝度)が改善しました。ただし、ステロイドは注射後3週と早期に改善する一方で持続が短く、PRPは12週から改善して試験終了まで持続したと報告されています。
著者らは、PRP注射のほうがより安全で、鎮痛効果と機能予後の点で優れていたと結論づけています。
ここに、本記事の主題との接点があります。ステロイド注射は局所の脂肪を萎縮させ、踵部脂肪褥症候群の危険因子となります。つまり、足底腱膜炎に対してステロイド注射を繰り返すことは、別の痛みの原因をつくってしまう可能性があるということです。
診断名は、変わることがあります
改善しない踵の痛みが続いている場合、まず原因の確認からやり直す価値があります。
診断名が変わることは、これまでの治療が無駄だったという意味ではありません。同じ痛みでも、見る角度を変えれば別のものが見えることがあるというだけです。
当院では、レントゲンに加えて超音波(エコー)で足裏の脂肪の厚みと足底腱膜の状態を確認し、画像をご覧いただきながらご説明します。
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当院について
リスク・副作用について
足裏脂肪移植は自由診療(保険適用外)です。費用は両側880,000円・片側660,000円(いずれも税込、術後用オーダーインソール作成費用を含む)で、このほかに初診料5,500円・カウンセリング料13,200円・術前検査13,200円・術後用物品セット15,000円・術後消毒セット1,500円・抜糸処置5,500円・術後診察の再診料2,200円×4回がかかります。脂肪を採取する部位には内出血・筋肉痛のような痛み・腫れ・皮膚の凹凸・色素沈着が、移植する部位(足裏)には生着不全・石灰化・感染・血腫・左右差・シスト(しこり)の形成・術後の一時的な腫れ・痛み・内出血が生じる可能性があります。少なくとも術後1週間は足底の痛みが続き、術後4週間の免荷期間が必要です。本治療は患者様ご自身の脂肪組織を用いるもので、医薬品・医療機器を留置するものではありません。なお、足裏クッション注射(Sculptra®/ポリ-L-乳酸製剤)と足底ヒアルロン酸注射(Neuramis®/架橋ヒアルロン酸製剤)に用いる製剤は、足底部への使用について国内で薬事承認を受けていない未承認医薬品・未承認医療機器であり、医師個人の責任のもとで輸入したものを使用しています。同一の効能・効果で国内承認を受けた医薬品はありません。諸外国における承認状況・安全性情報を含む四項目の詳細は「足裏脂肪移植の費用」ページに記載しています。
参考文献
Chang AH, Rasmussen SZ, Jensen AE, Sørensen T, Rathleff MS. What do we actually know about a common cause of plantar heel pain? A scoping review of heel fat pad syndrome. J Foot Ankle Res. 2022;15:60.
前道俊宏, 松本正知, 熊井司. 踵部脂肪体褥の機能解剖学的特徴とHeel Fat Pad Syndromeの理解. 臨床整形外科. 2024;59:271-276.
Gusenoff BR, Minteer D, Gusenoff JA. Perforating Fat Injections for Chronic Plantar Fasciitis: A Randomized, Crossover Clinical Trial. Plast Reconstr Surg. 2022;149(2):297e-302e.
Sawan ZH, El-Tohamy SA, Elhossieny KM, Basha OHA, Hafez AS. Analgesic efficacy and functional outcome in refractory cases of plantar fasciitis treated with platelet-rich plasma: randomized comparative study with corticosteroids injection. Egypt J Anaesth. 2023;39(1):477-487.
監修:菊池 守(リカルナクリニック)