かかとが痛い原因は「脂肪の減少」かも?踵部脂肪褥症候群を徹底解説
足底踵部痛の約15%を占める「もう一つの原因」
かかとの痛みといえば「足底腱膜炎」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、かかとの痛みにはもう一つの重要な原因があります。それが「踵部脂肪褥症候群(しょうぶしぼうじょくしょうこうぐん)」、英語では「ヒールファットパッドシンドローム(HFPS)」と呼ばれる疾患です。
デンマーク・オールボー大学のChangらが2022年にJournal of Foot and Ankle Research誌に発表したスコーピングレビューによると、HFPSは足底踵部痛の約15%を占める第二の原因と考えられています。にもかかわらず、足底腱膜炎との鑑別が十分に行われていないケースが多く、適切な治療につながっていない現状があると指摘されています。
踵部脂肪褥の驚くべき構造——早稲田大学の研究
かかとの裏側には、歩行時の衝撃を吸収するための特殊な脂肪組織「踵部脂肪体褥(しょうぶしぼうたいじょく)」が存在します。
早稲田大学の前道俊宏らが2024年に臨床整形外科誌に発表した研究では、この脂肪体褥の精緻な構造が詳しく解明されました。踵部脂肪体褥は厚さ12〜22mmで、浅層のmicrochambers(微小区画)と深層のmacrochambers(大区画)という2層構造になっています。
特筆すべきは、踵部脂肪体褥に含まれる脂肪酸の組成です。不飽和脂肪酸の割合が腹部の皮下脂肪の約1.75倍も高く、これにより低粘性で衝撃吸収に適した特殊な性質を持っています。つまり、かかとの脂肪は体の他の部位の脂肪とは異なる、まさに「歩くためにデザインされた」組織なのです。
なぜ脂肪が減るのか——リスク因子
この大切な脂肪クッションは、さまざまな要因で減少していきます。Changらのスコーピングレビューでは、以下のリスク因子が報告されています。
加齢は主要なリスク因子の一つです。年齢とともに脂肪体褥の線維中隔(脂肪を区切る仕切り)が変性し、衝撃吸収能力が低下します。また、肥満による過度の荷重、関節リウマチなどの全身性疾患、繰り返しのステロイド注射、外傷なども脂肪パッド萎縮のリスクを高めるとされています。
トルコのBelhanらが2019年にActa Orthopaedica et Traumatologica Turcica誌に発表した超音波研究では、踵部脂肪パッドの厚さが12mm未満になると萎縮を示唆するとされています。超音波検査は非侵襲的に脂肪パッドの状態を評価できる有用な検査方法です。
足底腱膜炎とどう見分ける?
HFPSと足底腱膜炎は、どちらもかかとに痛みを生じますが、痛みのパターンには違いがあります。Changらのレビューをもとに、主な鑑別ポイントを整理します。
足底腱膜炎は、かかとの内側(内側踵骨結節付近)に痛みが集中し、朝の一歩目で痛みが強く、歩いているうちに軽減する傾向があります。一方、HFPSは、かかとの中央部から広い範囲に痛みを感じることが多く、長時間の立位や歩行で徐々に悪化し、硬い床面で裸足で歩くと特に痛みが増す傾向があります。
ただし、両方の疾患が同時に存在するケースもあるため、正確な診断には超音波検査などの画像評価が重要です。
1994年から始まった脂肪移植治療の歴史
踵部脂肪パッド萎縮に対する脂肪移植治療の歴史は、1994年にまで遡ります。
米国の足病医であるChairmanが1994年にJournal of Foot and Ankle Surgery誌に発表した報告は、足裏への自家脂肪移植に関する初の報告です。50名の患者さん全員が術後に無症状となり、48名が足裏の脂肪パッドの増加を実感したと報告されています。
その後、2016年にピッツバーグ大学のGusenoff JAらがPlastic and Reconstructive Surgery誌に発表した前向きランダム化比較試験(RCT)により、この治療の有効性が科学的に確認されました。この研究では、脂肪移植群において痛み(p=0.022)、足の機能(p=0.022)、活動レベル(p=0.021)のいずれも有意な改善が認められました。
これらの研究は、脂肪パッド萎縮が単なる「老化現象」ではなく、積極的に治療可能な疾患であることを示しています。
まとめ
かかとの痛みは日常生活に大きな影響を与えますが、原因が足底腱膜炎だけとは限りません。踵部脂肪褥症候群は、痛みの約15%を占める重要な疾患でありながら、見落とされやすい病態です。
かかとの痛みが続いている方、特にかかと全体がジンジンと痛む方、硬い床で裸足を歩くと辛い方は、脂肪パッドの萎縮が関与している可能性があります。足の痛みでお悩みの方は、ぜひ一度RiCarna Clinic(リカルナクリニック)にご相談ください。超音波検査による脂肪パッドの厚さの評価を含め、痛みの原因を正確に診断し、適切な治療プランをご提案いたします。
※本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状がある方は必ず医師にご相談ください。